メタンガスは身近に存在するものの、あまり知られていない気体です。
ゴミの埋め立て施設・下水・水田・家畜など人間の生活と深くかかわりあっているのがメタンガスで、地球温暖化の原因の1つにもなっています。
メタンガス排出量が増えることがなぜ問題なのか、実際にメタンガスは増えているのか、減らすにはどうすればいいのか、国や企業は何をしていて、私たちにできることは何かを見てみましょう。
メタンガスとは?ナニが問題なの!?
メタンガスはものが腐ったときや発酵した時に出るガスです。
身近なところではゴミの埋め立て処分場や下水の泥、水田などからメタンガスが発生します。
ただ、メガンガスは無臭なので、腐敗臭そのものとは関係ありません。
また、メタンガスは地底や海底にもあり、エネルギー源としても用いられます。
↑湖の底から浮き出てきたメタンガス。
日本周辺の海底には、日本で消費される96年分の天然ガスの量に匹敵するメタンガスが眠っています。
私たちの生活の様々なところから生まれるメタンガスは何が問題なのか?
実は、メタンガスは地球を温める作用を持っています。
実に、二酸化炭素の25倍も地球を暖める力を持っているのがメタンガスです。
もし、このままメタンガスが増えるとどうなるのでしょうか?
地球のメタンガス濃度はココまで増えた!このまま増えつづけると?
情報元:気象庁
気象庁のデータによれば、地球全体のメタン濃度は工業化以前(1750年以前)に比べて157%増加しました。
そしてメタン濃度は年々上がり続けています。
最近では特に、海底や永久凍土からメタンガスが溶け出していることが報告されています。
地球温暖化が加速すれば、するほどメタン濃度が濃くなってしまうという悪循環です。
もしも北極圏の永久凍土が溶けてメタンガスが放出された場合、被害額は60兆ドル(4600兆円)になると予測されています。
日本の国内総生産の12倍近い数字です。
北極の永久凍土による影響が、北極だけにとどまるわけではありません。
永久凍土が溶けていくと、海面上昇もするのでなくなってしまう島国や浸水してしまう国もでてきます。
日本でも13mの海面上昇で東京、大阪、名古屋は壊滅的な影響をうけることになります。
本当にメタンガスが地球温暖化の原因なの?
情報元:環境省
↑メタンガスが地球温暖化の原因である、と言われる理由は空気中のメタン濃度と気温の比例が見られるからです。
地球は常に氷河期があったり、地面の温度が50℃にもなる温帯期があったりと、常に変動しています。
しかし、産業革命以降の大きな気温の変化に、それだけでは説明がつかなくなりました。
そして、新しい気候変動の原因として二酸化炭素やメタンガス、一酸化二窒素が温室効果ガス(地球温暖化の原因)とされるようになりました。
この3つの温室効果ガスについては、過去80万年間を推測した値から見ても前例のない水準で増えている、とIPCC(気候変動に関する政府間パネル)で語られています。
メタンガスが増え続けていく原因6つ
ここ250年ほどの間にメタンガスの放出量が一気に増え、地球温暖化に影響を及ぼしている背景には人間の様々な活動があります。
メタンガスを増やす原因にどんなことが挙げられるのかを、見てみましょう。
エネルギーの使用量が増えている
情報元:資源エネルギー庁
世界のエネルギー消費量の推移を見てみると、消費量全体が増えているだけではなく、表の緑色、ガスの使用量と使用割合が増えていることがよくわかります。
1965年にはわずか15.7%の使用割合だったのに対し、2016年のガスの使用割合は24.1%になっています。
天然ガスにはメタンが含まれるので、ガスを採掘するときにメタンが排出されてしまいます。
そして天然ガスは火力発電の燃料としても使われているので、3.11以降原子力発電所の再開の見通しが立たない日本にとっては、エネルギーの使用はメタンや二酸化炭素の排出と常に隣合わせです。
永久凍土が溶けてメタンが放出
2100年には永久凍土(長い間凍結した状態の土のこと)が33~50%減少すると言われています。
この永久凍土は中にメタンガス・二酸化炭素を含んでいますので、永久凍土が溶け出すと一緒にメタンガスや二酸化炭素などの温室効果ガスも空気中に排出されることになります。
日本には非常に少ないものの、富士山、立山を含む一部の山頂には永久凍土が存在している可能性があります。
ツンドラ気候と呼ばれるグリーンランド、アイスランド北部、ロシアの一部、北極海沿岸などです。
国立環境研究所地球環境研究センター他の研究では、この永久凍土の中でも特に濃いメタン(大気メタンの何千倍)が検出されている「エドマ層」が融解していることがわかりました。
2015年と2017年では、エドマ層の地下氷のある崖の位置が数メートルも変わっていたのです。
海底のメタンハイドレートが溶け出している
メタンハイドレートは、メタンと水で構成されたもので、「燃える氷」とも呼ばれています。
見た目は氷なのですが、近づけるとメタンに反応して燃え、最後は水だけが残ります。
このメタンハイドレートは海底に眠っており、海中の環境の変化によって融解することがあります。
2015年にはアメリカのワシントン大学が、ワシントン・オレゴン沿岸のメタンハイドレートが融解、メタンガスの放出が起きている可能性を指摘しました。
深海のメタンはすべてが海面まで上って温室効果を発揮するわけではないものの、今後様々な場所でメタンハイドレートが融解すれば、大気にまで影響するメタンガスの排出量も増えることは間違いないでしょう。
森林伐採
森林は、メタンの吸収を行っています。
森林の土の上や中にいる微生物が、メタンの分解を手伝ってくれるからです。
特に日本に数多くある火山灰由来の森林土壌は、メタンの吸収力が高いことで知られています。
日本と欧米の森林土壌のメタン吸収量を比べたところ、日本の方が2倍も高かったのです。
では、この森林が減ったらどうなるかというと…当然メタンを吸収してくれる土壌が減り、メタンの排出に対して吸収が追い付かなくなります。
幸い日本の森林面積はここ数十年で大きな変化はありませんが、世界的に見ると森林は減り続けています。
木材の使用や焼き畑農業、人間が暮らす場所を作るために壊されていく森林は1分間にサッカーコート27面分にもなることがわかっているのです。
稲作
メタンガスが増えるちょっと意外な原因が、稲作によるものです。
お米を育てている水田には、メタン生成菌が住んでいます。
これらの菌は酸素が少なくなるとメタンを作り出し、発生したメタンは稲の茎や根を取って大気中に出ることとなります。
人間活動で発生するメタンのうち、1割は稲作のための水田によるものと予測されます。
世界では20億人が米を主食としていますので、メタンの排出量がそれなりに多いのも納得ですね。
家畜のおなら・ゲップ
稲作だけではなく、畜産でもメタンガスが発生しています。
具体的には、家畜のおならやゲップからです。
牛や羊は反芻動物と呼ばれ、食べたものを部分的に消化した後に、もう一度口の中に戻して咀嚼するという食べ方をします。
これらの動物は4つの胃を持っていますが、第1胃と呼ばれる胃にいる微生物がメタンガスを作り出します。
そして家畜のおならやゲップを通して、メタンガスが空気中に排出されるのです。
世界には牛だけでも十数億頭いることを考えると、家畜からのメタン排出にも対策していかないと、地球温暖化に歯止めをかけるのは難しくなります。
日本の企業がやっているメタンガス排出対策3つ
日本でのメタンガス排出対策は、主に水田に関するものとバイオガス発電となっています。
稲作大国であるだけに、水田・稲作の中でどうやってメタンを減らしていくか、という観点での研究が多いのは諸外国とは少し違う特徴です。
具体的に、3つのメタンガス排出対策を見てみましょう。
バイオガスによる発電
バイオガス発電とは、ゴミの発酵で生まれたメタンを含むバイオガスから電気を作り出す手法です。
ゴミや家畜の糞尿を集めて発酵槽という場所で発酵させ、出てきたメタンガスを電力として用います。
以前だったらただ捨てていただけのゴミ、そしてそこから排出されていただけのメタンガスを、私たちの使う電気として使えるようになりました。
または、バイオガスを熱に転換して利用することもあります。
ジャガイモの生産が主産業の北海道士幌町にあるJA士幌では、商品には適さない野菜をメタン発酵して熱にするシステムを取り入れました。
水田のメタン発生を抑える
国立農業・食品産業技術総合研究機構はメタン発生を抑える水田管理のマニュアルを公表しました。
具体的には、中干し期間を伸ばす方法が取られます。
中干しとは、夏に田んぼの水を抜いてひびが入るくらいまで乾かすことです。
一度田んぼの水を抜くことで根が強くなる、肥料の吸収量を調整できるといったメリットがあります。
この中干しの期間を1週間程度延長すると、メタン発生量を抑えられることがわかりました。
熊本県で行われた実証試験では、従来7日間だった中干しを3日間前倒し、全部で10日間にすることで、55%のメタン削減効果が認められました。
食品ロスの削減
食品ロス(食料廃棄)を削減するだけでメタンガスの排出を抑えることができます。
日本では食事の632万トン(4000万食分)もの廃棄処分されています。
日本と世界の食品ロス(フードロス)対策11つ。クリスマスケーキ、恵方巻きだけじゃない… >
これらの廃棄された食事は、生ゴミになり腐るとメタンガスを発生します。
また、米や牛肉などは生産される過程でメタンガスを発生させています。
食品ロスの問題を解決させるために、マクドナルドなどでは短時間で調理が可能な設備投資をすることで廃棄量を50%削減することに成功しています。
世界で行われているメタンガス排出対策4つ
日本とは違い、世界ではどちらかというと畜産で発生するメタンへの対応が熱心に研究されています。
牛や羊などの家畜の頭数が多い国は、牛・羊のゲップやおならに含まれるメタンをどうするかも緊急の課題になっています。
家畜から発生するメタン対策を含めた、4つのメタンガス排出対策を紹介します。
メタンハイドレート発電の研究
海底に存在するメタンと水からできた「燃える氷」メタンハイドレートを利用した対策が研究されています。
温暖化によって徐々にメタンハイドレートが融解してメタンが出て来るなら、そのメタンを発電に使うという発想から生まれました。
これにより出てきたメタンガスをただ排出するのではなく電気として利用できるので、石油資源の利用が減り、二酸化炭素の排出削減、地球温暖化につながるというわけです。
ただし、この方法は無条件で多くの企業が取り入れる前に慎重な研究が必要と言われています。
アメリカ地質調査所ほかの研究によれば、メタンハイドレート開発中に回収できないメタンが大量に放出される恐れがあるとのことです。
日本近海は世界有数のメタンハイドレート埋蔵量を誇りますが、慎重に慎重を重ねて研究・開発・実用の段階を踏むことが求められています。
牛の餌を変える
↑牛の餌にカギケノリという種類の赤い海藻を混ぜると、その餌を食べた牛はメタンの排出量が最大58%減ったのです。
地球に数十億頭といえる家畜である牛や羊。
彼らの胃にいる微生物がメタンを排出し、メタンガスの排出量増加につながっています。
そこで、特に畜産をメインの産業とする国や畜産物消費の多い国は牛や羊のゲップによって生まれるメタンへの対策を講じています。
アメリカでは、餌を変えることでメタンの排出量を減らすことに成功しました。
町中のメタン漏れを発見
メタンガスの排出とかかわっているのが、天然ガスや石油採掘時、利用時 のメタンガス漏れです。
目には見えないメタン漏れを発見するためのセンサーを利用しているのが、Googleです。
Googleストリートビューを作るために世界の様々な場所を走っているGoogleストリートビューカーに、メタン検知センサーを取り付けました。
Googleカーが事業のために移動しているときに、メタン漏れを素早く検知することが可能です。
しかも、センサーは自動で動くため、運転手が何か新しい技術を学ぶ必要もありません。
羊のゲップ税法案(後に否決)
ニュージーランドは人口500万人弱に対して羊が3000万弱・牛が1000万以上と、人間より家畜が多い国。
それだけに、羊や牛のおなら・ゲップから生まれるメタン排出対策が急務ともいえます。
そんな中、2003年には家畜のゲップやおならに課税する法案が提出されました。
課税額は牛1頭に対して年間72セント、羊1頭に対して年間9セントという額でした。
農家1軒あたりでは、およそ300NZドル(当時のレートで2万円弱)の税金が予測され、農家にとっては負担が大きいものでした。
最終的に6万人分の課税反対署名が提出されたことで、羊のゲップ税法案は否決に。
過去の話とは言え、非常に革新的な案だったことからここでも紹介しました。
家庭でできるメタンガス排出対策4つ
家庭でのメタンガス排出量を減らす取り組みももちろんあります。
そしてその多くは、メタンガスだけではなく二酸化炭素も減らしてくれる一石二鳥な方法です。
ここでは、4つの方法を紹介します。
電気使用量を減らす
電気使用量を減らす方法は様々です。
例えば冷暖房の設定温度を1度高く(低く)すること、あまり使わない電気機器はコンセントを抜いておくこと、照明の明るさを調整したり、1つの部屋に集まって使う照明自体を少なくすること、テレビ番組を見る時間を1時間減らすことなどがあります。
特に手軽なのは冷暖房の設定温度を変えること。
実際にやってみると、1度なら意外と厚着・薄着で耐えられることがわかるかと思います。
このようにして電気使用量を減らすと、電気を作るための石油・天然ガスの採掘時におけるメタンガス排出量を押さえられます。
生ゴミ・紙ゴミを減らす
メタンガスはゴミの発酵によっても発生するので、ゴミ自体を減らすことはメタンガス排出量の削減にもつながります。
生ごみを減らすために、食べ物を買うときには食べきれる量を買いましょう。
そして、野菜の下ごしらえではできるだけ食べる部分を多く取り、芯や茎も一品料理に仕上げるのがおすすめです。
キャベツの芯を使ったチャーハン、ブロッコリーの茎を使ったきんぴらなど、芯や茎の料理は意外と多いものです。
ノートやメモ帳はきちんと最後まで使ってから捨てる、あまり興味がなければダイレクトメールは断る、スマホやパソコンのメモ帳で代用するのもよいですね。
ものを長く使う
↑使い捨てのレジ袋よりも、長く使える買い物袋を使う人が増えてきています。
今あるもの、買ったものを長く使うことはメタンガス排出量削減に有効な手段の1つです。
というのも、ものを作るときには様々な材料が使われており、そこからメタンガスも発生しています。
プラスチック製品なら石油が使われ、石油採掘時にメタンガスが出ます。
商品の包装にプラスチックが使われることもありますね。
また、包装に紙が使われた場合は木が原料になっていることもあります。
大量に作り、大量に使えば森林破壊が進み、森林の吸収力で吸収していたメタンが大気にそのまま排出されます。
今あるものを大切に使えば、商品の製造、梱包、流通、廃棄の際に発生するメタンを発生させずに済むのです。
それに、お気に入りのものを大切にする、丁寧な心まで身につきます。
お子さんがいる家庭では、ぜひ「ものを大切に使う習慣を身につけること」をおすすめします。
自宅でバイオガスを生成
↑イスラエルの企業が開発した家庭用バイオガス生成装置「Home Biogas」。
8万円強と少し値段もはりますが、バイオガス発電で通常の電気使用量を賄える分を考えると最終的にはお得、と考える方も少なくはありません。
重さ40㎏程度で、戸建ての家で庭があれば十分に設置できる大きさもうれしいところですね。
実際、量産化のためにクラウドファンディングで資金集めをしたときには70か国以上の人々が協賛したそうです。
まとめ
二酸化炭素以上の温室効果を持つ、メタンガス。
地球温暖化対策のためにはメタンガスの排出量削減も積極的に行っていく必要があります。
国や企業単位では、稲作・畜産分野でのメタン排出量削減のための計画とメタンハイドレート利用によるメタン・二酸化炭素排出量削減のための計画が進んでいます。
私たちが日常生活でできることとしては、ゴミを出さずにものを長く使う生活、電気使用量を抑える生活を取り入れることが重要です。
永久凍土が溶けたときの被害額は何と60兆ドル!?https://wired.jp/2013/08/31/gas-disaste/Bubble plumes off Washington, Oregon suggest warmer ocean may be releasing frozen methane
https://phys.org/news/2015-10-plumes-washington-oregon-warmer-ocean.html
日本の森林土壌のメタンの吸収量は欧米の2倍https://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id024787.html
DEFORESTATION THREATS
https://www.worldwildlife.org/threats/deforestation
水田からのメタン発生量(生産環境保全分野) – 神奈川県ホームページ
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/cf7/cnt/f450009/p581284.html
バイオガス利用(士幌町農業協同組合様(北海道)向け食品加工残渣バイオガス化システム)
http://www.jfe-eng.co.jp/products/link/s04.htmlClimate change impacts on methane hydrates
https://worldoceanreview.com/en/wor-1/ocean-chemistry/climate-change-and-methane-hydrates/
水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/methane_manual.pdf
地球を救う? 牛排出のメタンを減らす海藻、量産化に取り組む米企業
https://newsphere.jp/sustainability/20181014-1/
Google、ストリートビューカーで有害なメタンガス漏れを発見
https://ideasforgood.jp/2017/03/28/google-car-methane/生ゴミが新しい我が家のエネルギー源! イスラエルのスタートアップ企業「Home Biogas」が開発した、生ゴミからバイオガスを生成する装置って?
https://greenz.jp/2016/05/26/home_biogas/
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